広島高等裁判所岡山支部 昭和52年(ラ)7号 決定
抗告人 石川宗男(仮名)
主文
原審判を取り消す。
抗告人の名「宗男」を「雄一」に変更することを許可する。
理由
一 抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由は別紙抗告状〈省略〉記載のとおりである。
二 よつて検討するに、本件記録によれば、抗告人は○○会社等数社の代表者をしている者であるが、昭和四〇年ころ自己の研究になる姓名判断上の理由から戸籍上の「宗男」に代えて「雄一」の名を用い始め、以来一〇数年間にわたり右通称の使用が許されない商業登記、運転免許等公的認証関係を除き、納税、会社及び自己の取引並びに親族交友関係等抗告人の社会的及び私的生活領域において相当広範囲にわたり右通称を継続的に使用し、現在では右通称が抗告人の名であると一般的に信ぜられる状態にいたつていることが認められる。
なるほど、抗告人には数回の前科歴があるけれども、右はすべて昭和三四年一二月以前の事柄であるし、その外本件記録を精査してみても、本件改名の申立に不法の動機があるものとは認めがたく、また、右通称使用の動機は前認定のとおりであるが、相当長期間通称を使用している以上かりに、改名をはかる意図が本人の前科歴と無縁のものではないとしても、むしろ更生をはかるに利するものとして積極的に評価すべきものであり、これを消極的要素として評価すべきものではないというべきであろう。
以上によれば、現状においては、右通称の「雄一」をもつて、抗告人の戸籍上の名とするのが、むしろ社会的呼称秩序の安定に資するものというべきであるから、本件改名の申立は正当の事由があるものというべきである。
三 よつて、これと異なる原審判を取り消し、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 加藤宏 判事 喜多村治雄 篠森眞之)